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AIが支える次世代バイオマス発電設備運用支援システム~「IZANA」が現場を変える~

バイオマス燃料にも対応できる循環流動層(CFB)ボイラは、脱炭素社会の実現に向けた発電設備として注目を集めている。設備の安定運転を実現するには 、設備の信頼性向上とオペレーターの負担軽減が欠かせない。
住友重機械工業の研究者・技術者たちは知恵を結集し、AI(人工知能)を活用した発電設備運用支援システム「IZANA(イザナ)※」を開発した。
顧客の発電設備から収集した運転データをAIが解析し、安定運転のための提案を行うこの画期的なシステムは、どのようにして生まれたのか──。

PEOPLE
エネルギー環境事業部 
事業開発推進部 主任技師
ICT本部
DX推進部 主任技師
技術本部 技術研究所
情報数理技術部 主任研究員

表面的な課題から「本質」へ

IZANAの開発が始まったのは2015年。当初は、納品済み発電設備の故障を早期に発見する方法を模索する中で、技術研究所が研究していた機械学習モデルの応用可能性に気づいたことがきっかけだった。
名前には、設備・事業・社会貢献を正しい方向へ「いざなう」という思いが込められている。

発電設備の予期せぬ停止は、経済的損失だけでなく電力の安定供給にも影響する。メーカーとして築いてきた信頼性をさらに向上させるようなシステムの開発が求められていた。

開発が進むにつれ、「これは商品になる」という手応えが生まれた。しかし、汎用的な技術では表面的な課題しか解決できない。「現地に何度も足を運ぶなどして『本当の困りごと』を探り、顧客の声を機能に落とし込んだ」とICT本部の主任技師は振り返る。

「必要ない」と言われたことも

従来、不具合が起きた際には社員が現地に出向き、データを確認して改善方法を提案する方法が取られていた。しかし、これでは時間も手間もかかる。
そこで、住友重機械グループの ICT/IoT 共通基盤「SHICuTe(シキュート)※」を活用し、セキュリティを確保しながら 、運転データの常時蓄積とリアルタイム共有を可能にする仕組みを構築。状況把握や提案も迅速に行えるようになった。

2018年から始まったIZANAの試験運用では、アルゴリズムの信頼性を高めるとともに、現場のニーズを丁寧に拾い上げ、約3年かけて機能を磨き上げた。

とはいえ、すぐに受け入れられたわけではない。熟練オペレーターの技術に誇りを持つ現場からは「うちにはベテランがいる。こんなものは必要ない」と言われたこともあった。
一方で、技術継承に悩む企業からは歓迎され、時代の変化が受け入れの後押しとなった。

「機能はある程度完成したが、IZANAはこれで終わるシステムではない」とエネルギー環境事業部の主任技師は語る。「将来的には、オペレーターがいなくてもAIで自動運転できる仕組みを目指したい」

途切れそうになったバトンをつないだ仲間たち

業界では、メーカー自身が開発した運用支援システムはほとんど存在しない。多くはIT企業が手がけた汎用的なものだ。
そんな中でIZANAが完成に至ったのは、「現場に寄り添い、本当に役立つものをつくりたい」という開発者たちの強い思いがあったからだ。

元ボイラ設計者や工場勤務経験者など、異なるバックグラウンドを持つメンバーが、それぞれの現場経験を活かして開発に貢献した。
「IZANAがあれば、もっと作業員に優しい仕事ができる。人間らしく働ける環境につながるはず」と主任研究員は語る。

2023年夏、IZANAはついに商用化された。プロジェクトが途切れそうになったことは何度もあったが、そのたびにバトンを受け取る仲間が現れ、前へと進めてきた。
だからこそ、歩みを止めるわけにはいかない。手を差し伸べてくれた仲間のために、そしてこの技術を必要としてくれる社会のために──。

  • 「IZANA」「SHICuTe」は、住友重機械工業株式会社の登録商標です。

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