お知らせ

陽子線治療システムが日本で初めて医療機器に

2001年09月25日

 住友重機械工業株式会社(社長 日納義郎)は、当社新居浜製造所(愛媛県新居浜市)において、GMP(医療用具の製造管理及び品質管理規則)に適合した医療用具品目として「陽子線治療システム」の製造許可を愛媛県より取得しました。

 「陽子線治療システム」は陽子線を利用したがん治療装置で、当社は1998年に国立がんセンター東病院(千葉県柏市)へ納入しています。このシステムは臨床試験用でしたが、陽子線治療を目的とした専用装置としては国内で初めて設置されたものです。当社は薬事法で定められた医療用具として本システムの製造承認申請を厚生省に行い、本年4月に厚生労働大臣より承認されました。これを受け、陽子線治療システムを製造する新居浜製造所は、医療用具の製造管理や品質管理規定を定めたGMPの適合工場としての製造許可を申請していました。今回愛媛県からも製造許可を取得したことで、当社は「陽子線治療システム」を研究用ではなく医療機器として日本で初めて製造、販売をすることになりました。

 陽子線はX線や電子線と異なり、一定深さで急激にエネルギーを放出して消滅する「ブラッグピーク」と呼ばれる物理特性を有しているため、がん細胞のみに線量を集中して治療することができます。周辺の正常な組織に対する影響を抑えて効果的な治療ができるため、これまで照射が難しい部位についてX線などの放射線治療を避けて手術を選択していたものが、陽子線治療システムを使えば手術せずに治療できるケースが増えると期待されています。欧米の大学、研究施設を中心に世界各地で臨床試験が行なわれており、これまで3万名以上の治療が行なわれています。海外で陽子線の治療装置が医療機器として認められているのは、FDA(米国食品医薬品局)により昨年承認された米国カリフォルニア州のロマリンダ大学医療センターと今年承認されたマサチューセッツ州のノースイースト陽子線治療センターの2ヵ所です。わが国では、放射線医学総合研究所と筑波大学、兵庫県粒子線治療センターで陽子線を含む粒子線治療の臨床試験が行なわれています。また、国立がんセンター東病院では、同病院の行う「陽子線による固形がんの治療」が一部に保険診療が認められる高度先進医療に適用されています。

 今後、高度先進医療としての治療が進み、より安全で効果的な治療方法として普及することで、健康保険の全面適用が期待されています。

1.陽子線治療の特徴

陽子線は荷電粒子線の一つで、陽子を加速することで得られる放射線です。人体に照射した場合、一定深さで急激にエネルギーを放出(「ブラッグピーク」)し停止するという、X線にはない物理特性を有しています。陽子線治療は、このような (1)最もエネルギーが放出される位置(深さ)がある、(2)ある深さ以上は到達しない、という陽子線の特性をもとに、特に深さ方向の線量分布を最適化することが可能な放射線治療法です。病巣の深さ、広がりに合わせて陽子線のエネルギーを制御することで、ピークの幅を変える(「拡大ブラッグピーク」)ことにより、患部に的確に線量を集中した照射治療をすることができます。


2.陽子線治療システムについて

【加速器】
陽子は、がん治療専用にベルギーIBA社と共同で開発されたサイクロトロンにより、エネルギー235MeV(飛程30cm相当)まで加速されます。複雑な操作なしに高強度の連続ビームの照射が可能です。

サイクロトロンとビーム輸送系

【照射装置】
回転ガントリーによるビーム照射方向の調整(360度、任意の位置に設定可能)と、治療用寝台位置の調整により、患者さんへ任意の角度からの照射治療が可能で、治療時の身体的負担が軽くなります。
連続ビームのため、呼吸同期の対応が容易になっており、患者さんの動きに応じて病巣に照射することが可能となります。また、回転ガントリーを利用した治療装置とは別にビームの照射方向を固定した治療装置も設けられています。

回転照射装置
固定照射装置