Vol.1

遠い宇宙を見通す

宇宙の始まりを知るためには、光が届かないほど遠くにある暗黒の宇宙を、より正確に観察する必要があります。そのためには電波望遠鏡が重要な役割を果たしますが、電波を受信する能力を高めるためには、受信機をマイナス270℃前後まで冷やし、熱や温度変化で発生するノイズを極力減らさなければなりません。そこで使われるのが極低温冷凍機です。現在、南米高地に進行中のアルマ望遠鏡計画に当社の技術が使われています。

暗黒の宇宙からやってくる
微量の電波をキャッチ

望遠鏡で遠くをはっきり見るためには、その直径をどんどん大きくする必要があります。しかしながら、1台の望遠鏡の大きさには限度があり、例えば直径1kmの電波望遠鏡をつくることなどほとんど不可能です。ただ、いくつかの電波望遠鏡の観測データを組み合わせることで、望遠鏡間の距離を直径とする仮想的な一つの望遠鏡をつくることは可能です。この電波干渉計方式という仕組みを使うことで、分解能が高まり、遠くの宇宙をより細かく観察することができるようになります。

南米チリの標高5,000mのアタカマ砂漠に国際プロジェクトで建設中の「アルマ望遠鏡」(Atacama Large Millimeter/submillimeter Array=ALMA=アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計)は、最大18.5kmもの範囲にパラボラアンテナ66台を配置した、干渉計方式の巨大電波望遠鏡です。その分解能は、すばる望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡の約10倍と言われており、光の届かない暗黒の宇宙からやってくる微量の電波をキャッチすることができるようになります。

この望遠鏡の受信装置を冷やすために、当社の極低温冷凍機が使われています。

冷凍能力を最大化する
3段式構造

3段式構造の極低温冷凍機

電波望遠鏡は、人間の生活によって生じる電波ノイズを嫌います。また波長の短い電波は大気中の酸素や水蒸気によって吸収されてしまうため、大気が薄く乾燥している高地のほうが観測には向いています。アルマの設置場所としてアタカマ高地が選ばれたのはそのためです。

また、宇宙からの微弱な電波を受信するためには、受信機(センサー)の性能も高めなければなりません。センサー部分の熱雑音(熱ノイズ)を減らすためには、それ自体を極低温で冷却することが一般的に行われています。

アルマの受信機冷却には、これまで半導体製造装置用のクライオポンプ(真空ポンプ)や医療装置MRIなどに使用されてきた当社の冷凍機が搭載されています。電波望遠鏡用途では、国立天文台野辺山宇宙電波観測所などでもすでに使われています。

今回は冷凍機の構造を3段式にすることでノイズの低減と冷凍能力の最適化を図っています。まず1段目で大型シールド版の冷却を行い、2段目でローノイズアンプを冷却。さらにリード線からの熱伝導や輻射熱を抑えるようにしました。これによって3段目のステージに設置されるセンサーを冷やすため、冷凍能力の大半を利用することができるようになりました。また、ステージに複数のセンサーを設置することも可能になりました(マルチチャンネル化)。

小型化と温度変化の低減によって
過酷な環境を克服

アンテナが設置されるアタカマ砂漠は標高5,000mの過酷な環境

3段式構造の冷凍機の設計には大変な苦労が伴いました。とりわけ、全体の熱バランスを考えながら、冷凍機シリンダの大きさを決定する部分では試行錯誤がつづきました。途中では冷凍機を2台使用する案も浮上しました。2台使用すれば、たしかに冷凍能力が高まりますが、それだけ熱バランスの設計が難しくなり、また装置が大掛かりになるというデメリットもあります。めったに人の通わない高地での建設のため、望遠鏡部品の小型化は至上命題。これまでの冷凍機設計のノウハウを総動員し、なんとかこの条件をクリアしました。

観測にあたっては、ステージ上の温度振幅の低減も重要な課題でした。温度変動による電気抵抗値の変化は、致命的なノイズ源になります。この問題の解決のために、3段目のステージ部分をヘリウムガスを密閉したヘリウムポッドですっぽり覆う案が採用されました。これらの工夫を通して、ステージ上を絶対温度4.2K(摂氏温度-268.95℃)に安定的に保つことができるようになりました。

アルマ望遠鏡は、2012年から本格運用が開始されます。観測が始まると、宇宙ができてまもない頃の生まれたての銀河の様子や、宇宙に漂う有機分子の組成がわかるようになるはずです。太陽系や銀河系がどうしてできたのか、私たち生物の素となる生命の材料はどこからやってきたのかなど、宇宙の謎がまたひとつ科学的に解明されることでしょう。

最大直径12mの巨大なパラボラアンテナからすれば、冷凍機は小さなパーツにすぎません。しかし、宇宙の始まりを知るためには欠くことのできない装置なのです。

  • 記載内容は、すべて取材当時のものです。

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