Vol.9

フィールド・ビュー・
モニターで安全を確保

工事現場で使われる建設機械の多くは、運転室が機械左前方に設置されているため、機械の後方と右側は、一般の車以上に見えにくい“死角”になっています。最近は機械にCCDカメラを設置し、運転席内に設けられた液晶モニターで周囲を監視する装置も増えています。独自の画像処理を施すことで、このカメラ映像をよりリアルに直感的にオペレーターに伝えることに成功したのが、住友重機械の「フィールド・ビュー・モニター(FVM)システム」。視界が不十分のために起こる建設事故を減らすことが期待されています。

右と後ろに弱点。
建設機械の視野を広げる

建設業の労働災害は1978年をピークに年々減少していますが、それでも2012年には年間2万人の死傷者が発生し、うち367名が亡くなっています。その原因として墜落の次にあげられるのが建設機械に起因する事故。死亡事故の半数が、機械に激突されたり、挟まれ、巻き込まれたことによるものです。オペレーターの周囲確認不足も大きな要因の一つと考えられています。

例えば、建設機械の代表、油圧ショベルでは、運転室が機械左前方に設置されているため、機械の後方と右側は、一般の車以上に見えにくい“死角”になっています。もちろんバックミラーはついていますが、周囲の安全確認には最善の注意が必要です。最近はミラーの代わりに、建機本体にCCDカメラを設置し、運転席内に設けられた液晶モニターで周囲を監視する装置を搭載する機種が増えてはいます。しかし、カメラ映像をそのまま表示するこれまでの周囲監視モニターシステムでは、使い勝手にいくつかの問題がありました。

3つの映像を合成し、
上空からの視点を提供

オペレーターから死角となるエリアは1台のカメラでカバーすることができないので、後方と右側の2つの映像を確認する必要があります。しかし映像の切り替えは煩わしく、また2つの映像を1つのモニター画面に同時表示するにしても、周囲の人物や障害物がどの位置にあるのかが直感的にわかりづらいのです。

広い範囲をカバーするためには、広角のカメラを使用すればよいのですが、今度は広角レンズ特有の映像の歪みのため、オペレーターが距離感を把握しにくいという問題がありました。このような周囲監視モニターシステムの弱点を克服し、より高いレベルの周囲安全確認サポートを実現したのが、FVM(Fiield View Monitor)システムです。

住友重機械工業が住友建機と共同で開発し、油圧ショベル“LEGEST”シリーズのオプション装置として2011年に発売。これがユーザーから好評だったため、現在は同シリーズの標準装備になっています。この技術は、国土交通省のNETIS(新技術情報提供システム)にも登録され、建設業界における安全施工の目安の一つとなっています。

FVMシステムでは機械の後方・右側・左側に取り付けられた3台のCCDカメラの映像を瞬時に加工・合成し、最大270度の広い視角をもつ映像を提供することができます。あたかも機械周囲を真上から見たような鳥瞰図の形で表示するため、機械の周囲の状況を一目で確認することができます。

また、「夜間工事やトンネル内作業など暗い環境の下でも使いたい」という建設業界のニーズに応え、高感度のCCDカメラを採用。暗い環境でも十分な視認性を確保しています。「オペレーターに視野の広い“鳥の目”を与えることで、建設機械による死傷事故の発生を少しでも抑えることができたら」と、開発にあたった住友重機械工業・技術研究所の清田芳永技師は期待しています。

カメラ設置用の
独自ソフトウェアも開発

住友建機・技術本部の加藤英彦主任技師

清田技師らが最も苦労したのは、カメラ映像の加工・合成技術。3台のカメラからの映像は膨大な量にのぼるため、これをリアルタイムで処理するためには、高速の論理回路基板を独自に設計する必要がありました。しかもこれを低コストで提供しなければ、せっかくのシステムも普及しません。開発に着手してからコストを含めて商品化の見通しが立つまでに、約2年がかかっています。

画像処理のためのアルゴリズムやソフトウェアにも特徴があります。複数のカメラ映像を加工・合成する場合、単純に合成すると画像が重なる部分が“消失”してしまうことがありました。FVMシステムでは独自のアルゴリズムで画像処理をするため、消失のない鳥瞰映像を提供することができます。

カメラ映像は、2次元の映像をいったん3次元に置き換えて視点変換を行い、さらにそれを画像の継ぎ目に違和感のない映像として合成します。カメラを取り付ける位置で画像の見え方が変わってくるため、これを計算するための専用のソフトウェアを開発し、特許を取得しました。そこには、半導体製造の過程で使われるガラス基板の位置決め設備やコークス炉の炉内監視カメラなど、住友重機械のこれまでの技術が活かされています。

振動が桁違いに大きな建設機械の運転室内に設置する、小型車載モニターの開発も苦労したところ。オペレーターが操作に戸惑わないような、わかりやすいユーザー・インターフェイスの実現にも時間がかかりました。

実際にFVMを使用した建機オペレーターからは「近くだけでなく遠くから近づいてくる物体が見えるのがよい。前方だけでなく、全方位への監視が容易になった」という声があがっています。

「ICTを使った建設機械の安全システムはこれからの重要な技術。同時に、荷役装置やクレーンなど、人が運転する重機なら何にでも応用が可能です。国内だけでなく海外からのニーズにも応えられるよう、なお一層の技術開発が必要が求められています」

共同で開発にあたった住友建機・技術本部の加藤英彦主任技師は、今後の市場開拓に向けた抱負を語っています。

お客さまの声

「現場でより安全を確立できるフィールドビューモニター」
大山土木株式会社
代表取締役社長
野中 豊様

以前は、現場から建設機械を使用する際、「後方が見えない」「ミラーも頼りなく不安」との声が多く聞かれました。ところが、フィールドビューモニター(FVM)を搭載した建設機械を使いはじめてからは、現場から、モニター越しに自分の目で安全を確認しながら作業ができるので大変安心、という喜びの声が上がるようになりました。これは、会社として一番ありがたいことです。また昨年、NETISのV登録になったことで発注者の評価も高まりました。どの現場もフィールドビューモニター(FVM)を導入して創意工夫をアピールすることで、総合評価方式で加点評価を受けています。当然、高い点数で受注に望めるということで、今後の受注機会が増えることにつながると思います。

「FVM」は住友重機械工業株式会社の登録商標です。

  • 記載内容は、すべて取材当時のものです。

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